最高裁判所第一小法廷 昭和59年(あ)1578号 決定 1985年1月31日
本籍
東京都豊島区池袋一丁目五一五番地
住居
同 港区南青山七丁目一三番二一号
会社員
本山昇
昭和一五年一二月七日生
右の者に対する法人税法違反被告事件について、昭和五九年一一月七日東京高等裁判所が言い渡した判決に対し、被告人から上告の申立があったので、当裁判所は、次のとおり決定する。
主文
本件上告を棄却する。
理由
弁護人山本剛嗣の上告趣意は、量刑不当の主張であって、刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。
よって、同法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 和田誠一 裁判官 谷口正孝 裁判官 角田禮次郎 裁判官 矢口洪一 裁判官 高島益郎)
○ 上告趣意書
被告人 本山昇
右の者に対する法人税法違反被告事件についての上告の趣意は左記のとおりである。
昭和六〇年一月一六日
右弁護人 山本剛嗣
最高裁判所第一小法廷 御中
記
原判決の刑の量定は甚しく不当であり、原判決を破棄しなければ著るしく正義に反する。よって、原判決は破棄されるべきである。
以下にその理由を述べる。
一、本件犯行は、被告人が、株式会社メールオーダーハウスの昭和五四年一〇月一日から同五五年九月三〇日までの事業年度における法人税につき虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為によりその一部を免れたというものである。
これにつき、東京地方裁判所は、被告人を懲役一年二月および罰金五〇〇万円に処し懲役刑については三年間刑の執行を猶予し、控訴審である東京高等裁判所は被告人の控訴を棄却した。
二、以下に述べる事情を斟酌すると、右刑の量定は甚しく不当である。
(一) 一事業年度における一回のみの行為であり、しかも、申告期限直前に利益の圧縮を図る決意をしたもので、計画的なものでは無い。
すなわち、一事業年度内に業績が急上昇し、しかも、多額の売掛金が存在したため、資金繰りが当初から苦しかった。このため、経理上計上された利益に基づき申告納税を為す資金的余裕に乏しく、しかも、申告時期には業績の急激な悪化が予測されたという特異なケースである。
(二) 利益の圧縮は、株式会社ヘルスエージェンシーの負担とすべき支出を株式会社メールオーダーハウスの経費として計上することにより行われたが、株式会社ヘルスエージェンシーは当初メールオーダーハウスの事業部とする計画でいたところが取引上法人化する必要が生じたため別法人としたものであって、脱税目的で設立されたものでは無い。
(三) 不正申告によって免れた税額相当の資金は、その大部分が右両会社の事業資金として使用されたもので、個人的利得を目的としたものでは無かった。
(四) 被告人には前科前歴は無い。
(五) 罰金は、法人が倒産した現在では、被告人個人が調達して支払う必要があるが、個人として負担するにはあまりに多額である。
(六) 被告人には、妻子があるが、蓄えは乏しく、身内に資力の豊かな者もいない。したがって、罰金を完納することは不可能であって然るべき期間の労役場留置は免れない。
以上